TOKYO2020

支える2020の仕事

東京2020パラリンピックの舞台裏で活躍。
"着るロボット"導入が実現する
パワーバリアレス社会

パナソニック株式会社
パラリンピック統括部
アクセシビリティ推進課
主務
荻島敬司(左)
株式会社ATOUN
代表取締役社長
藤本弘道(右)

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"着るロボット"とも呼ばれる「パワーアシストスーツ」が東京2020パラリンピックに導入される。開発したのはパラリンピックのワールドワイドパートナーであるパナソニックの社内ベンチャー制度から生まれた子会社、「ATOUN(以下、アトウン)」だ。

パラリンピック競技のひとつ、パラパワーリフティング。下肢に障害がある選手を対象としたベンチプレス競技。横たわった状態から上半身の筋力だけでバーベルを押し上げ、その重さを競う。パナソニックのパワーアシストスーツがこの競技をサポートすることになっている。
パワーアシストスーツを身に付けるのは、「スポッターローダー」という補助員だ。選手の両脇に立ち、試技をサポートするだけでなく、バーベルにつけるおもりであるプレートの交換という重労働も担う。プレートは12種類の重さがあり、一番重いものは1つ50kgにもなる。試合は男女10階級に分類され、選手は1試合に3回の試技を行うため、スポッターローダーは選手に合わせて重いプレートの取り外しを何十回と行うことになる。この作業負担を軽減するためにパワーアシストスーツが活躍する。すでにパラパワーリフティングの国際大会の現場で使用もスタートしている。

「アシストスーツはこれまで物流・製造現場が主な活躍の場所でした。しかしスポーツ、そしてエンターテインメントの領域でもアシストスーツがお役にたてるということがわかってきました。『そういった使い方もできるのか!』と、開発した私たちにとっても大きな発見となる機会となっています」とアトウンの藤本弘道社長は説明する。

さらにこのパワーアシストスーツは、東京2020パラリンピックの舞台裏でも20台程度が導入され、重い荷物を運ぶ作業の現場でも活躍する予定だ。「荷物の運搬、上げ下ろしなど、単純な繰り返しの作業が頻繁に生じる場面で、作業の方々の負担軽減のために利用していただくことになっています」とパナソニックの荻島敬司は話す。日本のパワーアシストスーツが、世界の選手・大会関係者を出迎えることになる。

このパワーアシストスーツの名は「ATOUN MODEL Y」。重さは4.5kg。バックパックを背負うように着込み、腰と太股にベルトを巻き付けてスイッチをオンに。すると、着用者の腰の動きをセンサーでとらえ、モーターの力が腰の負担を3割程度、軽くしてくれる。面倒なスイッチ操作は不要。着用者の姿勢に応じて3つの作業モードが自動で切り替わるため、歩行の動きを妨げない。「あうんの呼吸」で着用者を助けるのが強みだ。

現在、パワーアシストスーツの導入は世界的に進んでいる。大きく分けると「ATOUN MODEL Y」と同じ電動によるロボット系と、ゴムやバネの力を用いる非ロボット系との2種があり、「両者を含めると約10万着が普及しています」と藤本社長は説明する。

ロボット系は非ロボット系よりも重く、価格も割高だが、そのぶんテクノロジーの力で複雑な動きをも的確にサポートしてくれる。そのため、物流業や製造業といった、複合的な動きを求められることの多い現場で特に活用される。空港の荷物の搭降載作業や、薬品工場や樹脂成形メーカーでの材料の運搬や機械の操作といた場面で働く人々の作業の負担を軽減し、疲労やケガから体を守っている。

パワーアシストスーツはまだまだ進化の途中。次世代以降のモデルで追及するのは「常時装着」が可能になる小型軽量化だ。「もう一段軽くできる技術的な目処はもう立っています。パワーに加えてスピードの補助など、個人の作業に合わせた微調整もできるようになる」と藤本社長は語る。

さらに藤本社長は、形状やデザインも性能とリンクして開発されていくという。
「私たちのものづくりはいつも”未来のデザイン”をイメージしています。5年後、10年後の未来を思い描き、『じゃあ、そのときにスマホはどうなっているんだろう。どんな現場になっていて、どんな作業着を着ているのだろう』と、一見関係ないところまでディテールを追求していく。そしてその中に登場するであろう新しいプロダクトの機能と形を考え、その未来の到来までにプロダクトを完成させるとしたら今何をするべきか、と、時間を逆算して開発していきます。これがわれわれのイノベーションの起こし方。ですから機能とともにその形やデザインも同時にイメージして開発していくんです」

アトウンがパワーアシストスーツの開発を通じて、究極的に目指すのは、「“パワーバリアレス社会”の実現」だ。つまり年齢や性別など体力の差から生まれる壁を取り除くこと。
将来、気軽に使用できるパワーアシストスーツが生まれ、その補助があれば高齢者も女性も筋力に自信のない人も、重いものを持ち上げたり、運んだり、腰を何度も上下させるような作業がより容易になる。それによって仕事の選択の幅が広がる可能性もあるだろう。

また、農業など高齢化が進む産業分野や、人手不足と言われる介護の分野への導入が進めば、働く人の生涯労働時間も上がり、生産効率・作業効率もあがる可能性を秘めている。小型化、軽量化への開発も、このパワーバリアレス社会を見越したものだ。

「技術面だけを見れば、パワーバリアレス社会もすでに実現可能です。これからは、それをどう社会に実装していくか、という段階。その、社会実装を大きく進めるトリガーとなるのが、東京2020パラリンピックだと思うのです」(藤本社長)

※この記事は、新型コロナウィルス影響による外出自粛要請前に取材したものです。

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