TOKYO2020

支える2020の仕事

事故のおかげで夢を持てた。
「絶対に諦めない気持ち」で
東京2020パラリンピック出場を目指す

株式会社リクルートオフィスサポート
長野 志穂
(車いすバスケットボール 女子チーム
GRACE(グレース)ヘッドコーチ)
小田島 理恵
(車いすバスケットボール 女子チーム
GRACE(グレース)キャプテン)

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株式会社リクルートオフィスサポートに所属し、仕事と女子車いすバスケットボールのアスリート活動を両立させている小田島理恵選手と長野志穂コーチ。2人は、東京2020パラリンピックでの活躍も期待されている。だがその活動は競技だけにとどまらない。車いすバスケットボールの魅力、そしてこれまでの人生から得た学びを伝えるため、体験会を積極的に実施している。

小田島と長野の2人はこれまで、車いすバスケットボールの競技体験会を全国にて年間50件近く行ってきた。2人は選手とコーチの間柄。長野は小田島を「オダジ」、小田島は長野を「ジャックさん」と愛称で呼ぶ。

会場には、初めて触れる障がい者スポーツを楽しもうと、大勢の人々が詰めかける。ただし実技は講演のあと。まずは障がいに対する理解を深めてからと決めている。例えば、多くの障がい者が社会で暮らしていること、その存在が意識されていないこと、車いすを操る妙技のこと、あるいは満員電車に乗り込んでくる車いすに向けられる冷たい視線や人々の態度・対応など。そのなかでも自分のことは自分でこなそうとしている日常や、それでも助けを借りたい場面のことを話す。

障がい者って、邪魔者ですか?
障がい者って、迷惑ですか?
2人の言葉は、いつも率直だ。中高生を前にした講演でも、しばしば会場が静まり返る。

困っている障がい者を見て「手を差し伸べていいのかな」と躊躇する健常者がいることはわかっている。腫れ物に触るように接してほしくはないが、例えば、大きな段差を乗り越えようとする時、「お手伝いをしましょうか」の一言が嬉しい。「だから、障がい者に対して感じている『なんとなく声をかけにくい』といったハードルを下げたいんです」。そのために、車いすバスケットボールの実技体験より先に、語りたいことがあるのだ。

その上で、小田島のこれまでを深く知る長野が、客席に向かって問いかける。「『オダジは車いすバスケに出会って人生が変わったんだよ、すごくない?』と。オダジが経験してきたことを知ったら、障がい者だけではなく、お年寄りに対しても優しい気持ちで接してくれるようになると思います」

小田島は22歳で事故にあい、右足と体幹機能に障がいを負った。立って歩けるまでに回復したが、右足の感覚はなく、熱湯をこぼしても何も感じない。腹筋も使えないため、床を転がるボールに手を伸ばすことも実は難しい。だが小田島は車いすの車輪の回転を利用し、ボールを絡め取るようにして拾い上げる。チームではシューターを務め、美しいフォームで3ポイントを量産する。

そんな小田島が繰り返し語っているのは「事故のおかげで夢が持てた」という、自身の経験だ。実は、事故以前の小田島は、摂食障害やうつ病を抱え、入退院を繰り返していた。

それが事故後、車いすバスケットボールとの関わりのなかで回復してゆく。体が全く動けなくなり初めて、人に頼ることを知った。「それまでは何でも1人でやろうとする子どもだったんです」。車いすバスケットボールは、障がい者センターでの体験教室がきっかけでのめり込んだ。病院用の車いすと違いスピードが出る競技用の車いすが気持ちよかった。「どハマリしました」。家にいるよりも練習がしたい。練習をすれば食事も進む。車いすバスケットボールを軸にして心身の健康を取り戻していった。

高校時代は少林寺拳法で全国大会に出場し、入賞をしたこともある小田島。車いすバスケットボールでも上を目指した。所属したチームにパラリンピアンが在籍していたことも小田島の背中を押した。その後、長野コーチの指導を受けるようになり、日本代表入りを果たす。

「だから講演のタイトルは『絶対に諦めない気持ち』です。私は事故のおかげで車いすバスケに出会い、パラリンピック出場の夢を持つことができたんですから。本当に、何がきっかけになるかわからない。しんどいことがあっても耐え抜いて頑張ってほしい。そんなことを話しています」

自分の経験を話すことで、今つらい状況にある人の支えになれたら。小田島には、そんな思いもある。「講演会は、私のためでもあるんです。あの辛い体験があるから、今こうして人の支えになれるんだと思えるから」

体験会の後半は、実技で車いすバスケットボールの魅力をアピールする時間だ。車いすに座ったまま、腕の力だけでシュートをするのがいかに難しいか。講演中は神妙な面持ちだった中高生も、小田島の鮮やかな3ポイントシュートに歓声を上げる。競技用の車いすに乗った生徒たちが束になって追いかけても小田島に追いつけない様子を見て、また歓声。

「みな、車いすに乗ってみたくてしょうがない、という感じですね。試合形式でプレーしてもらうときは、私がサポートに入ったり、軽いボールを使ったりしながら、楽しくやれるように工夫します」。

海外チームに比べて体格面で劣る日本代表チームが勝負をするには、体格差を無効化できるミドルシュートが武器になるはず。それこそ、小田島の得意技だ。

「もし出場できるなら、絶対にシュートを決めてチームに貢献したいです。でも代表になれたとしても、私はやっぱり普通の人間。東京2020大会を通じて障がい者を身近に感じてほしい。障がい者と健常者のあいだには何の壁もないよ、ということが伝わったらいいですね」

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