TOKYO2020

支える2020の仕事

支えられる側から
支える側へ。
オリンピアンの目で
練習環境を整備する

公益財団法人日本オリンピック委員会
ナショナルトレーニングセンター
拠点ネットワーク推進事業
アシスタントディレクター
石野枝里子

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公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)のスタッフとして東京2020大会を目指すアスリートを支える立場にある石野枝里子。スピードスケートでトリノ2006冬季オリンピックに出場したオリンピアンだ。表舞台に立つことだけがオリンピアンの役割ではない。トップアスリートが利用する練習施設の整備に、自らの経験を生かしている。

東京都北区にある味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)は、国内最高レベルトップアスリートの競技力向上に資するために建設された施設だ。競技力向上に欠かせないトレーニング・栄養・休養の3要素をすべて満たせるよう、夏季競技16競技19種別の専用練習場のほか、食堂や宿泊施設、トレーニングルームなどを備える。

石野枝里子は、味の素NTCに勤めるスタッフの1人だ。スピードスケート選手としてトリノ2006に出場し、14年に引退。北区の東京オリンピック・パラリンピック担当課を経て、JOCで拠点ネットワーク事業に従事している。

石野の主な仕事は、国が指定し、全国に数十カ所存在する「ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設」が、関係諸機関と良好なネットワークを構築し、うまく利活用されるようコンサルティングを行うことだ。主にスキーやスケートなどの冬季競技、ヨットやカヌーといった水辺系競技、屋外系競技など、味の素NTCでは実質的なトレーニングを積むことができない競技の練習拠点を担当する。

ミッションは、各拠点を整備し、味の素NTCが持つ機能により近づけること。アスリート時代の経験を活かし、施設に何が足りないか、どう補えばいいのか、客観的な視点から助言することで各競技の競技力向上に寄与している。

「アスリートだからこそわかる部分もあります。例えば、ハードな練習をした後、休める場所まで移動するのに1時間かかるとしたら十分な休養ができません。NTC競技別強化拠点施設を味の素NTCと同じレベルにするのは無理だとしても、地域の方々と連携すれば何かよい手が見つかるかもしれないんです」

現役時代は知らなかった、と石野は言う。オリンピックの裏でこんなにもたくさんの人が動いている、ということを。「だから、今になってようやく、私を支えてくれていた人に感謝できるようになったんです。遅いですよね(笑)。でも私も今は、裏で支える人間でありたい」

現役時代、石野は2つの民間企業を経験した。引退後、同じ職場で働き続けることもできた。地元北海道に帰る選択肢もあった。相談相手に「行政を経験してみたら?」とアドバイスされたときは、「自分に行政は無理です」と即答した。

だが、その後考えた。民間と行政、スポーツを支える2つの立場を知れば、視野が広がるかもしれない。「それにスケートしか知らないで生きていくのはもったいないなと。スケートだけが人生じゃない。将来子どもが出来たときに世の中の仕組みを説明できるように、いろんなことを知っておきたいと思いました」。

それから3年間、北区役所の「スポーツコンダクター」として、スポーツの価値を区民に発信した。競技者ではない立場でスポーツと関わるのも、石野には新鮮だった。スポーツは人生そのものだった、という石野に向けて「スポーツがなくても生きていけます」と言い放った子どもがいた。「びっくりしました。でも確かに、と。だからこそスポーツの価値を伝えていく義務がオリンピアンにはあるのかなと思いました」

スポーツを純粋に楽しむ子どもたちの姿に、思い知らされたこともある。「もちろん私もスケートは楽しかったですよ。でもそれが当たり前になって、いつしか勝つことばかり考えるようになった。そこが私のダメだったところ。もっと楽しんでよかったなって思いました。やっぱり私の視野は狭かったです」

選手として出場したオリンピックと、JOCのスタッフとして裏側から支えるオリンピック。2つを経験する石野には、今、オリンピックがどう見えるのだろうか。

「全然、見え方が変わりました。以前は、努力して強くなったアスリートはオリンピックに当たり前に出られるものだと思いこんでいました。オリンピックは、アスリートのためのものだと。でもそうじゃないんです。支えてくれている多くの人たちがいるし、国ぐるみでサポートをしている。スポーツができること、オリンピックに出られることが当たり前ではないと競技を離れて初めて知ることができました。だからこそ、JOCが推進しているオリンピックの価値や、その役割を伝えていくことも、オリンピアンの責任だと思うようになりました」

勝つことだけがオリンピックじゃない。それも、石野は伝えたいと思っている。「小平奈緒選手が平昌2018冬季オリンピックで金メダルを獲得したとき、銀メダルだったライバルのイ・サンファ選手を抱擁するシーンがありました。あれが象徴なんですね。勝ったからこそ相手に敬意を示す。全力を尽くして負けたほうも、力を上回った相手を讃える。そういうオリンピックの姿を伝えたい」

オリンピアンとして、講演活動など表舞台に立つ機会もある。それもまた「オリンピアンとしての責任」の1つだが、「私は、表に出ることが一切なくても構わないんです」と言う。

「これからもずっとスポーツと関わっていきたいと思っています。オリンピックやトップアスリートをスタッフとして支えながら表に出ていない人がたくさんいます。今、私が『かっこいいな』と思うのはそういう人たち。私もそういう人間になりたい。これまでたくさん支えてもらった分、今度は私が支える側になりたいと思うんです」

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