TOKYO2020

支える2020の仕事

「自転車で街づくり」を。山中湖から自転車競技の文化を発信したい

山中湖村役場 観光産業課 国際交流員
ボシス・トム

up

東京2020オリンピックの自転車競技ロードレースは、スタート会場の東京都府中市から一路富士山を目指し、ゴールの「富士スピードウェイ」まで、男子約244km、女子約147km(女子競技は2日目に実施)を約6時間かけて走りぬく。距離もエリアも東京2020オリンピックの中で最大級のスケールの大きい競技だ。そのコースとなる山中湖で、元自転車競技選手のフランス人青年が山中湖村職員として働いている。「山中湖から自転車競技文化を育て、世界に通用する自転車選手を生み出したい」。その挑戦は始まったばかりだ。

富士山の東に位置する、美しい緑に囲まれた山中湖。2019年2月、山中湖のほとりに新しい自転車ロードレースチームの拠点が生まれた。チームを率いるのはフランス人のボシス・トム、25歳。フランスでプロの自転車競技選手の経験を持ち、現在山梨県山中湖村の村役場で働く、異色の経歴の持ち主だ。

20歳のときに日本に留学してきたトムは、大学卒業後、日本の自転車競技業界に飛び込んだ。その後、日本の東京2020オリンピック・パラリンピック招致が決まり、山中湖村はフランス自転車競技チームの事前合宿キャンプを招致。その時にトムは現地での調整役としてフランスチームとともに山中湖を訪れた。これが縁となり、山中湖村はトムを国際交流員として職員に迎え入れた。これがトムの人生を変えることになる。東京2020の自転車競技ロードレースのコースとなり、フランスチームが滞在する山中湖。そこに拠点を持つことで、夢が生まれた。「山梨県を日本の自転車競技文化の拠点にしたい。山中湖から、世界でも戦える選手を生み出したい」

「山中湖のチームでは、世界のトップリーグで走るレベルまでの作戦を考えています。コンセプトは地域密着型」と語るトムは、選手として参加すると同時に、自転車競技チームマネジメントの手腕も発揮する。

村役場では通訳や地元の学校で子供たちとの交流といった仕事が中心。その傍ら、数十ページにもおよぶ自転車競技の魅力を伝える企画書を日本語で作り上げ、自転車競技を活かした山中湖のまちづくりを企画提案した。また、チームでは、選手を育成し、発足から数か月で実績を上げつつある。フランスのアマチュアチームとの交換留学の協定も締結。日本人にフランスの本場の自転車競技の世界を経験してもらい、日本ではフランス人の選手の本場の走りを見る機会を増やし、日本人選手の技術を高める。まさに公私ともに地域と自転車競技のために貢献する日々だ。

フランス生まれのトムは12歳から自転車競技をはじめ、自転車競技選手としての成功を目指してきた。大学生になったころには、プロチームの育成組織に所属。いくつかの大会では優勝も経験し、プロ選手としての一歩を踏み出していた。しかしそこは人生のすべてをかけなければ生き残れない厳しい世界。そこでトムは立ち止まる。

「毎日のきつい練習に体重管理、そして競技時間も長い。好きなものも食べられないし、友だちを作っても遊べないから作らない。トッププロを目指すには、その努力をし続けなければいけない。自転車競技選手の生活の厳しさをわかってはいたけれど、自分にはまだまだやってみたいことがたくさんあった。やりたいことをやらずに後悔したくなかった」

トムは20歳のとき、自転車競技の世界から離れることを決意する。トムにとって自転車競技から離れることは、それまでのつながりをすべてなくすことと同じだ。それだけに自分を徹底的に変える必要がある。そこで選んだのが日本への留学だった。

「それまで自転車競技の世界で生きてきたので、社会的な人間として何もできていなかった。日本で、今までできなかったことを何にも縛られることなく自由にやりたかった」大学に通って日本語を習い、友達もたくさんできて、彼女もできた。

やがて留学の期限を迎える。日本に滞在し続けるには、就職してビザを取得し続けなければいけない。自分にできることは何か。考えたトムは、再び自転車競技に取り組むことになる。

「自転車競技はヨーロッパが本場。自分はフランスの高いレベルの自転車競技の世界を知っている。世界のトッププロにはなれなかったけれど、日本で今までの経験を生かして何かができるかもしれない」そして日本を見回してみると、世界に比べるとまだまだ自転車競技の文化が小さいことに気づいた。「日本の自転車競技の文化を大きく育てたい」それはフランスで自分を育ててくれた自転車競技への恩返しの気持ちでもあった。自転車競技を日本に広めていく。それがトムの人生の目標になった。

「東京2020は日本人が世界レベルの自転車競技を初めて直接目にする機会です。競技がわからなくても、テレビに映るコース風景だけでも楽しめるから見てほしい。山中湖の魅力も伝わると思います」

東京2020の自転車競技ロードレースも、競技とともにその風景映像にも期待が高まる。東京武蔵野エリアから富士山周辺にいたるコースの風景は、山中湖も含め、日本の自然の美しさを世界にアピールする絶好の機会となりそうだ。

「東京2020は自分の人生を変えてくれた存在。自転車競技を東京2020だけで終わらせずに、日本に根付かせていきたい」日本で、そして山中湖で見つけた目標に向かって、トムの活躍はこれからが本番だ。

SHARE

  • Twitter
  • facebook
  • LINE