TOKYO2020

支える2020の仕事

アスレティックトレーナーの
先駆けとして、選手をサポートする
環境作りを多角的に行っていく

白木 仁
アスレティックトレーナー/ゴルフ競技・医事担当
(筑波大学 人間総合科学研究科スポーツ医学専攻 教授 体育センター長)

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過去4度のオリンピックで、スピードスケートやアーティスティックスイミングのアスレティックトレーナー(以下、トレーナー)を務め、そのメダル獲得に貢献してきた白木仁さん。選手たちのフィジカル・コンディションを整えることはもちろん、勝負を前に極限状態にある彼らの精神面の支えにもなってきた。白木さんは、そうしたこれまでの経験を糧に、東京2020大会のゴルフ競技・医事担当として、ドクターやトレーナー仲間と共に、世界から集まるトップ60のゴルファーをサポートする。

人間の体の構造を知り、日々のトレーニングから大会本番まで、アスリートのフィジカル・コンディショニングを担当するのがアスレティックトレーナーの仕事。フィジカルコーチと呼ばれることもある。この職務に40年以上取り組んできたのが、白木仁さんだ。

白木さんは、リレハンメル1994冬季オリンピック、長野1998冬季オリンピック、シドニー2000オリンピック、アテネ2004オリンピックで、スピードスケートとシンクロナイズドスイミングの選手たちがメダルを手にする瞬間を、間近で見てきた。
「トレーナーの存在価値は、選手の成果、ただ一点です。サポートした選手がオリンピックで金メダルを獲ったりしたらもう、それは言葉にできないほどの喜び。勝利を境に、トレーナーとしての考え方や“見える景色”もまったく変わっていきますよ」

トレーナーは普段、選手たちをどのようにサポートしているのか。
選手の日々のトレーニングメニューの作成、トレーニング中に選手の体・筋肉の動きをチェックし、アドバイスすることが一つ。また、ケガを予防し、体をケアし、選手の体をモニタリングするためのマッサージも行う。時に、マッサージをしながら選手の迷いや不安に耳を傾け、精神面のケアもする。
「とはいえ、選手とはある程度の距離をとることが必要。トレーナーを信頼しすぎて頼ってしまうと、その選手はダメになる。スポーツは個人競技であれチームであれ、個が大事ですから」

実は、トレーナーの役割は、コーチによってとらえ方が異なる。選手に対して「マッサージだけでいい」と依頼するコーチがいれば、「トレーニングも指導してほしい」、さらには「栄養管理まで頼みたい」と依頼してくるコーチもいる。
白木さんはかつて、アーティスティックスイミング日本代表チームのトレーナーとして6年間、コーチとともにメダル獲得の道を共に歩んだ経験もある。
「『この選手は痩せすぎだからガッチリさせたい』、『この選手は肩が弱いから鍛えてほしい』など、リクエストが明確。そこで、スピードスケートや野球選手に行っていた過去のトレーニング手法を応用し、コーチのリクエストに合うよう提案していくのです。コーチとのそうした試行錯誤は、本当に楽しかったです」
選手やドクターにも意見を求め、対話しながら“勝てる選手”にしていくクリエイティブな作業は、大きなやりがいだった。

白木さんはアテネ2004の後、2007年に日本ゴルフ協会のナショナルチーム(アマチュア選手)強化担当に着任。
「しかし、当時のナショナルチームにはコーチがいませんでした。トレーナーがいくら選手の体作りをしても、選手の成長を助け、技術・精神面で指導するコーチがいないとダメなんです。それで、2015年に海外からヘッドコーチを招聘したこともあります。そこには日本の選手たちを海外の舞台に早くから出してあげたいという思いがありました」
白木さんは、この東京2020大会に、トレーナーではなく、ゴルフ競技の選手向けの医事担当として挑む。

選手向けの医事担当、そのシニア・ディレクターの仕事は、出場選手がケガをしたときの応急処置などを行う医務室設置、ドクターとトレーナーの配置などがある。
「これまでトレーナーとして、仕事を通じてお世話になってきたドクターやトレーナーに声をかけ、30名ほどに集まってもらいました」
オリンピックでは、医事担当として参加するトレーナーは特にヨーロッパにおいて、理学療法士の資格を有するのが一般的。しかし日本にそうしたトレーナーは多くない。その代わり、鍼灸師や柔道整復師という国家資格を有するトレーナーはたくさんいる。この資格を持つトレーナーを、「応急処置などを担う医事担当のメンバーとして配置してよい」と決まったのは、2019年5月。
「東京2020大会という舞台に参加できる――その決定によって、これまでいろんな形で協力してくれていたトレーナー仲間に、恩返しができると思いました。みんなが『この期間だけは生活を東京2020大会一色にしようよ』と言ってくれています」
東京2020大会に参加するドクターもトレーナーも、オリンピックの自国開催というめったにない機会に、みんなが喜んで協力を申し出てくれている。
「ゴルフ競技は、プレー中の選手の視界に入る場所に我々がいてはいけなくて、カートを停める場所が決まっていたり、ジャッジ(審判)が指示するまで医事は勝手に選手に触れてはいけないなど、様々なルールや取り決めがあります。ですから、日ごろゴルフトーナメントに参加し、ゴルフ競技に精通したドクターやトレーナーに頼むわけですが、その経験がある人は多くないので、貴重なメンバーです」

「自国開催のオリンピックですし、正直、トレーナーの仕事で参加してみたいという思いもありました(笑)。でも、それは次の世代に譲り、私はこれまでのオリンピック帯同経験を生かして、求められることにまい進しようかなと」
東京2020大会が、鍼灸師や柔道整復師、日本スポーツ協会のアスレティックトレーナーなど、そうした資格を有するトレーナーが日本にいることを広く知らしめる機会になる可能性は高い。
「“アスレティックトレーナー”を名乗り始めた者として、“選手の体を作る”トレーナーの仕事や存在価値をもっと世の中に知ってもらうこと、そして様々なスポーツ選手の強化方法をトレーナーの視点から考えていくこと、それを東京2020大会と、そこでの経験を生かして、継続的に行っていきたいと思います」

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