TOKYO2020

支える2020の仕事

スポーツ選手も
お年寄りも。
みんなの爪を
健康にしたい

ネイルトレーナー
辛川知美(写真左)

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ネイリストといえば、女性の爪を華やかに彩る仕事をイメージする人も多いかもしれない。辛川知美が2010年に新しくつくり出した「ネイルトレーナー」は、ネイルの装飾の美しさではなく、アスリートたちの爪の健康を保つことを目的にした仕事だ。競技による爪のケガやダメージをケアし、ひいては選手のパフォーマンスアップにも大きな役割を果たす。小さな爪のケアにアスリートたちの注目が集まっている。

ネイルサロンを自ら経営し、ネイリストとして20年近く働いてきた辛川は、爪に関する悩みや相談をたくさん聞いてきた。
「特に多かったのが、スポーツ選手のお客様からのご相談でした」
たとえば野球選手。強い送球を受けるうち、ミットの中で爪が割れ、試合に出られないのでなんとかしてほしいという相談。
格闘技の選手は爪を強くしてパンチ力をあげたいという。
サッカー選手には、足の爪の伸び方に癖があり、足指に刺さって痛いので爪の形を整えてほしいと頼まれた。

「アスリートたちは爪の重要性をよく知っています。でもネイルケアをどこでしたらいいのかわからない状況でした」
実はアメリカでは、チームに爪のメンテナンスができる人がいるのがあたりまえ。でも日本のスポーツの世界には爪のケアやメンテナンスをする文化がまだない。
彼らのようなアスリートたちのために、スポーツのトレーナーのようにネイルケアを普及させる必要がある。その想いから辛川が生み出したのがネイルトレーナーという職業だ。

アスリートたちの悩みを解決したい。辛川はアスリートのためのネイルケアの環境を整えるべく団体を発足。2016年から一般的なスポーツトレーナーとしての身体機能の知識と、ネイルケアの技術を兼ね備えた「ネイルトレーナー」の育成に努め、3年間で150名の施術者を生み出した。
ネイルトレーナーの活動は、野球、サッカーなどのプロスポーツをはじめ、スポーツクラブ、施術院など多岐にわたり、活躍の場は少しずつ広がりを見せている。さらに東京2020でアスリートのネイルケアによる支援の可能性を模索中だ。

第一線で活躍するアスリートも爪への関心が高い。

東京2020パラリンピックで金メダル獲得を目指す水泳の富田宇宙選手も、辛川に爪のケアを委ねている選手の一人。水泳の全盲クラスに属する富田選手は、真っ直ぐに進むためにコースロープに指を当てて位置を確認しながら泳ぐ。硬いプラスチックの競技用ロープに勢いをつけて指を当てると当然痛い。さらに爪が割れることもあるという。
そこで爪の強度を上げるために、透明のジェルネイルで爪に厚みをもたせ、カバーして守る施術を定期的に受けている。
それまでボロボロで小さかった富田選手の爪は、月1回のネイルケアによって健康的な爪を保てるようになり、ロープや壁に爪が当たったときの衝撃も緩和された。

辛川が施術後に必ず「違和感がないかどうか」を本人に確認する。100分の1秒を競うアスリートにとって、ちょっとした違和感もストレスとなりパフォーマンスに影響を与えかねない。
富田選手は「辛川さんにケアしてもらうようになってから、爪がまったく気にならなくなりました」と語る。「自分で管理していたときは深爪になったり、割れた爪を引きちぎったままになっていたりと、いつもどこかに『ちょっと嫌な感じ』があったんです。それがまったくなくなった。おかげで自分の全てを発揮するための準備がしっかり整う気がして、気持ちよくレースに臨めます。実際に初めて爪を施術してもらったときは、最初の大会でアジア記録を出すことができました」

飛込台の踏み込みで感じていた足の巻き爪の違和感も、ケアによって解消。飛込時の飛距離アップにもつながっている。

指先までしっかり整っていることで、競技に対してより前向きにアグレッシブになり、強くなる感覚もある、と富田選手は語る。

アスリートを中心に活動を広げているが、辛川の夢はもっと広い。
その一つがアスリートのためのネイルケアを一般の人たちにも提供できる環境を整えること。スポーツをする人だけでなく、男性や自分の爪が切れないお年寄り、爪切りがうまくできない子供たちも爪のケアをできる場所だ。
「歯の磨き方は小学生のときに誰もが教わりますが、爪の切り方は教わらないですよね。みなさん我流で爪を切っていますが、実はちゃんとできている人は少ないんです。ですからたくさんの人に正しい爪の切り方から教えて、ケアできる場所をつくりたい。髪を切りに理髪店に行くように、爪をケアする店に行くことがあたりまえの文化をつくっていきたいです」

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